クズ御曹司の執着愛

プロローグ

滝沢颯真の社長就任パーティーの余韻がまだ残る、ホテルの一室。
沢口忠相《ただすけ》は酔いつぶれたふりをして、ベッドに横たわっていた。

「じゃあ、これで」
森田伊織は背を向け、ドアへと歩きかける。
忠相に肩を貸し、ここまで送り届けたのだ。義理を果たした以上、もう役目は終わり。

「……水を、くれ」

低い声に思わず振り返る。ため息をひとつ落とし、仕方なくグラスに水を注いだ。
差し出した瞬間、手首を掴まれる。

「……!」
体が引き倒され、ベッドに組み敷かれる。

「伊織……あの時の雪辱を、果たさせてもらう」

真上から見下ろす顔の口角が、ぞっとするほど冷たく吊り上がっていた。

息が詰まる。心臓が早鐘を打つ。
男の体温と重みが、容赦なくのしかかってくる。
怖い。体が凍りつきそうになる。

けれど同時に、胸の奥底から別の感情がせり上がった。
そう、軽蔑だ。

酔ったふりまでして、こんな真似をするなんて。
あの頃と何も変わっていない。
女なら誰でも同じだとでも思っている、その浅ましさ。

(くだらない……)

唇を噛みしめながら、私は必死に冷静さを保とうとした。
怖さに押しつぶされるわけにはいかない。
この男に、私を怯えさせる権利なんてないのだから。

20年前よりも、忠相の体の重みがずしりと圧し掛かってくる。
息苦しさを覚えながらも、私は彼の目をまっすぐに見返した。

「……やめて」

低い声で告げる。叫びでも懇願でもない。
ただ、忠告するように。

「やめない」
忠相が低く答え、顔を近づけてくる。
昔のように、隙がない。
ならば、隙が出るまで待つしかない。

伊織は、あえて抗わず忠相を受け入れた。
唇が重なり、執拗に攻め立てられる。
息が乱れ、視界が滲む。
忠相はそれを見て、口角を吊り上げた。

「やっと、素直になれたな」

ニヤリと笑い、ドレスのジッパーを下ろす。
顔を柔らかな膨らみに埋めた瞬間、伊織の瞳に冷たい光が宿る。

(今だ)

思いきり、忠相の急所を蹴り上げた。
「ぐっ……!」
うずくまる忠相。
伊織は急いでドレスを整え、冷ややかな視線を投げつけた。

「クズ男は、いつまでたってもクズなのね。呆れたわ」
「……っ」
「覚えていないようだから、もう一度言っておくわ。
私は…中身のない御曹司に興味なんてないのよ」

きっぱりと吐き捨て、ドアをばたんと閉めて去っていった。
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