クールな上司の〝かわいい〟秘密 ――恋が苦手なふたりは互いの気持ちに気づけない

(ヒーロー目線)恋は仕事のようにはいかない

(また、やってしまった)

 自宅の玄関で、智田は頭を抱えて座り込んでいた。
 不動に傘を渡せたことだけが唯一の救いだ。雨の中、傘のないまま彼女に外を歩かせるわけにはいかない。

 だが、それで安堵はできない。逃げるようにこの部屋を後にした不動の顔は、青ざめていた。不快な想いをさせたことに、間違いはない。

(まさか、現実だったとはな)

 茅野の店で飲んでいたはずなのに、気づいたらタクシーに乗っていた。まさか不動がいるはずないという先入観から、自分が見ているのは夢だと思い込んだ。

(それが夢じゃないと気づくのも、自分のドジだなんて)

 濡れた床に打ちつけた腰が、今さらジンジンと痛む。だがそれ以上に、不動のことが気になって仕方ない。


 バーベキューの日以降、智田は彼女との時間が減っていることに焦っていた。
 彼女は店長業務を抜かりなくこなす一方で、きちんと売場改変案に向き合い着実に準備を進めていた。

『店長としての仕事があるだろう』

 初めの日にそうに言ったにもかかわらず、だ。

 不動が自分の仕事だというのなら、上司である自分は彼女が無理をしていないかは気にするものの、フィードバックとアドバイスをするくらいに留めるべきだと思う。その方が、彼女も胸を張って自分の仕事だといえるだろう。

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