その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜
プロローグ
パキッ、と。
心の奥で、何かが砕ける音がした。
それが、自分のものだと気づくまで、少し時間がかかった。
「……結婚、しよっか」
休日の午後、高校時代から付き合う恋人・広瀬圭介が、ふいに口にした。
「え……? いま、なんて……?」
「待たせて、ごめん。詩乃、俺と結婚しよう」
深雪詩乃、29歳。十年以上一緒に過ごした恋人の言葉に、胸の奥が熱くなる。
——ずっと、待っていた。
嬉しかった。本当に、心の底から。
なのに、まさかあんな結末が待っているなんて——思いもしなかった。
――――――
「……っ、けいすけさん、そこ……だめ……」
「……くっ……」
耳に突き刺さる吐息。重なる裸の肌。
艶やかな声が、部屋の奥から漏れる。
そこにいたのは、婚約者だった。
「……なに、これ……」
視界が揺れ、足元が崩れる。頭の中は真っ白。
——こんな顔、知らない。
——こんな圭介、見たことない。
『……詩乃』
脳に残る穏やかで優しい声。名前を呼ばれるたび、未来を信じられた。
なのに——
「さき……もう、俺……」
女の名前を愛しげに呼ぶ声。
その瞬間、“この人と生きていくと信じた未来”は音を立てて崩れ落ちた。
——あの日、私の心は確かに壊れた。
心の奥で、何かが砕ける音がした。
それが、自分のものだと気づくまで、少し時間がかかった。
「……結婚、しよっか」
休日の午後、高校時代から付き合う恋人・広瀬圭介が、ふいに口にした。
「え……? いま、なんて……?」
「待たせて、ごめん。詩乃、俺と結婚しよう」
深雪詩乃、29歳。十年以上一緒に過ごした恋人の言葉に、胸の奥が熱くなる。
——ずっと、待っていた。
嬉しかった。本当に、心の底から。
なのに、まさかあんな結末が待っているなんて——思いもしなかった。
――――――
「……っ、けいすけさん、そこ……だめ……」
「……くっ……」
耳に突き刺さる吐息。重なる裸の肌。
艶やかな声が、部屋の奥から漏れる。
そこにいたのは、婚約者だった。
「……なに、これ……」
視界が揺れ、足元が崩れる。頭の中は真っ白。
——こんな顔、知らない。
——こんな圭介、見たことない。
『……詩乃』
脳に残る穏やかで優しい声。名前を呼ばれるたび、未来を信じられた。
なのに——
「さき……もう、俺……」
女の名前を愛しげに呼ぶ声。
その瞬間、“この人と生きていくと信じた未来”は音を立てて崩れ落ちた。
——あの日、私の心は確かに壊れた。
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