その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜

「俺を、利用して下さい。」

「……ありがとう、橘くん」

ベッドの端に腰を下ろし、髪を整えながら詩乃は小さく呟いた。声はかすかに震えている。
昨夜のことは消せない。
でも、それを日常に持ち込む覚悟も、まだ持てなくて。

「……昨日、橘くんがいてくれてよかった」

素直にそう伝えると、湊は眉を少し下げ、穏やかに笑った。

「後悔してますか?」

詩乃は俯き、言葉を選ぶ。

「……わからない。でも、救われたと思ってる」

「……あんなに優しく触れてくれるなんて、思ってなかったから……嬉しかった。……猫に噛まれたと思って、忘れてくれていいから」
照れ隠しのような言葉に、湊は首を横に振る。

「忘れませんよ」

「……え?」

湊の瞳は真っすぐに詩乃を見つめていた。

「もしまた、泣きたくなったら。誰にも頼れない夜が来たら。俺を呼んでください。無理に我慢しなくていい」

「俺を、利用してください。理由は何でもいいです」

視線を少し逸らし、照れたように目を細める湊。

「……どうしてそんなに、よくしてくれるの?」

震える声に、湊は一拍置き、ぽつりと呟いた。

「……それは、まだ内緒です」

その言い方が、ずるいくらい優しかった。
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