その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜

二度目の、夜。

玄関の扉が静かに閉まった瞬間、背後から伸びた湊の腕が、詩乃の手首をそっと引いた。
「っ……」
振り返る間もなく、詩乃は壁に背を預けるように軽く押しつけられた。
そして、次の瞬間──唇が重なった。

「……っ、ん……」

深く、熱を帯びたキス。まるで長く抑えていた感情が、一気に解き放たれるかのように、湊の舌が強く絡みついてくる。
それなのに、触れ方はどこか優しい。
まるで、傷つけないように大事に触れるみたいに。

「……詩乃さん」

キスの合間に、かすれるように囁かれた名前。

それだけで、心臓が跳ねる。
押さえられた詩乃の片手に、湊が指を絡める。

「……ん、待って、橘くんっ……」

唇がわずかに離れた瞬間、息を整えながら、詩乃はそっと湊の胸を押した。

「……シャワー浴びたい。……いい?」

その言葉に、湊の動きが一瞬止まった。
ふっ、と笑って、

「わかりました」

穏やかな声で答えた。
焦りも、欲も、ぜんぶ隠して。

「タオル、用意します。服は俺のTシャツを使ってください」

「うん……ありがとう」

詩乃の瞳が、どこか申し訳なさそうに揺れる。

「焦らなくていいです。俺は、詩乃さんに嫌われたくない。だから、ちゃんと待ちます」

そう言いながら、そっと彼女の髪を撫で、額にキスする。優しい指先に、詩乃の胸がきゅっと痛んだ。
こんなに気を遣わせてしまっている罪悪感と、どうしようもない愛しさが胸に込み上げてくる。

「……橘くん」

「はい」

「あとで……ちゃんと、ぎゅってしてね」

その一言に、湊の目が少しだけ熱を帯びた。

「了解です。全力で、ぎゅっとします」

ふっと弾けた笑顔に、詩乃も微かに笑った。
玄関の空気に溶けていた緊張が、少しずつほどけていく。

でも──二人の間に灯った熱は、まだ消えそうになかった。
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