その優しさに溺れる。〜一線を超えてから、会社の後輩の溺愛が止まらない〜

今は、曖昧な関係のままで。

 柔らかな光がカーテンの隙間から差し込み、詩乃はゆっくり目を覚ました。
肌に触れる体温、頬にあたる優しい呼吸。
このぬくもりが、夢ではないことを静かに教えてくれる。

「……ん……」

身体を起こそうとした瞬間、背後から腕がふわりと腰を引き寄せた。

「……あ、湊くん……?」

眠たげな目で彼が見つめ、甘えた声で囁く。

「……まだ、起きちゃダメです」

「えっ……?」

「ここにいて。まだ、離したくない」

ぎゅうっと抱きしめられ、胸がきゅっと鳴る。

「でも、もう朝だよ?」

「知ってます。でも、もっとこうしてたい。詩乃さんのぬくもり、全部俺のにしたばっかりだから…まだ余韻に浸りたいんです」

不意打ちの言葉に、胸が熱を帯びる。
ため息のような笑みをこぼし、そっと湊の髪を撫でる。

「……ふふ、子どもみたい」

「詩乃さん限定ですよ、こんな俺」

「ずるいな……そんな顔で言われたら、断れない」

「じゃあ、いいですよね。もう少しだけ甘えても」

頬に、額に、まぶたに優しいキスが降り、胸の奥にじんわりと幸せが広がる。でも、怖さも同じくらい広がる。
裏切られた心は、そう簡単には修復できない。
湊に惹かれているのはわかっている。
でも──この関係に名前をつけたら、終わる日が来たとき、もっと痛い。
 だから今は、曖昧なままでいたい。
それでも彼の温もりだけは、どうしても欲しくなる。
(……ずるいのは私の方なのに)
 もう一度、胸に顔を埋め、今だけはそれでもいいと自分に言い聞かせた。
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