捨てられ仮面令嬢の純真

暴動


「――倉庫街で暴動だと!?」

 警ら隊の急報がもたらされた王宮で、国王リュシアンは悲鳴をあげた。
 国王執務室にいるのはリュシアンとマティアス。そして報告に来た騎士団長フェルナンだ。上品な風格ただようフェルナンは、そこはかとなくリュシアンをさとす口調になった。

「暴動とまでは……貧しい者達が食べ物を求めている、ぐらいのことかと」
「しかし襲撃したんだろう! そんな無法を働く者ども、すぐに排除せよ」

 ヒステリックに叫ぶリュシアンをマティアスはなだめる。

「まあまあ陛下。フェルナン殿がお知らせに上がったのですから、もう騎士団も動いているのです。どうぞ続報をお待ちください」
「う、うむ……」

 ひとまず黙るリュシアンだったが、指が苛々と机を叩いた。
 リュシアンは、結婚祝賀舞踏会の時に倉庫街で火事があったのを実は気にしていた。民衆に祝福されない国王だと笑い者にされたように思い、ずっと根に持っている。
 だったら民に愛されるように行動すればいいものを、とマティアスは内心あきれていた。地位にふさわしく振る舞うこともせず、民心だけを求める王などマルロワにはいらない。

「フェルナン殿、賊はどの程度の規模でしょう」
「当初は十数人だったと警ら隊からは。しかし倉庫にある物資を求めて老若男女が集結しつつあるとかで、手が出せんのです」
「ああ、それは……」

 難しい顔をしながら、マティアス腕を組んだ。本当はその展開も予定通りだが。

「女子供をどうこうするのは騎士道にもとりますね」
「そのとおり。新しく群衆を近づけないように付近を封鎖していますが、手をこまねいているのが実情ですな」
「そんな連中どうでもよかろう、さっさと蹴散らせ! 騎士団ができないというなら王国軍を差し向けるぞ!」

 憎々しげに吐き捨てるリュシアンを、マティアスはまたたしなめた。

「陛下、彼らは我が国の民です。これは反逆というより、飢えた人々が物乞いに集まっただけ。王者の慈悲を見せ、これ以上の騒ぎにせぬのがよろしいかと」
「どうしろというんだ! ならばマティアス、おまえが行ってこい!」

 駄々っ子のようにわめかれて、マティアスとフェルナンは言葉をなくした。


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