捨てられ仮面令嬢の純真
不器用な二人
✻ ✻ ✻
やがて到着したのはささやかな館だ。レオは男爵として独立するにあたり公爵邸を出て、セレスと暮らす家を求めたのだった。
二人の新居の使用人は多くない。だが晴れて夫婦と認められた主人たちの帰宅に拍手がわいた。
「お帰りなさいませ。ご結婚おめでとうございます」
代表して迎えたのは執事のダニエルだ。公爵邸に仕える執事の一人だったが、レオの独立についてきてくれた。年も四十を過ぎ、執務経験豊富な男だった。
「これで奥さまとお呼びできますわね」
セレスに微笑んだのは家政婦長のアネット。新しい館をととのえるため、女主人セレスもたびたびここを訪れている。主だった使用人たちとはもう顔なじみなのだ。
他の下男や女中たちもそろっていた。区切りとしてセレスは皆に微笑みかける。
「これからよろしくお願いしますね。皆でレオさまを支えていきましょう」
「俺よりも、セレスティーヌが不自由しないように頼む」
「仲のよろしいことで何よりですな。ごちそうさまと申し上げましょうか」
ダニエルがわざと小難しい顔でおどける。大らかに笑ってアネットが後を引き取った。
「本当のごちそうはこれからですのよ。さあお着替えくださいませ。婚礼衣装はとてもお綺麗ですけど、ソースをはねかしたら大変ですものね!」
「セレスティーヌの作法は完璧だと思うが」
「旦那さまがテーブル越しに飛ばさないとも限りませんでしょう?」
茶目っ気たっぷりに主人をからかうアネットも公爵邸からの移籍組だ。レオの母ほどの年齢でもあるし、幼いころの失敗をたくさん知っているのかもしれない。レオは渋い顔でつぶやいた。
「……もうナイフは得意になったんだが……剣が仕事道具なんだぞ」
セレスはくす、と笑ってしまった。使用人たちから心を許されているということは、レオは気さくな坊ちゃんだったのだろう。これからはそんな顔も見ることになるのだろうか。
騎士として城で見せていた落ち着きある姿。セレスと二人の時の誠実な笑み。そして――家族としての穏やかでやわらかな佇まい。変わっていくレオの印象を受けとめて、セレスは幸せの予感にふるえた。
――この人となら、きっと安らげる。
やがて到着したのはささやかな館だ。レオは男爵として独立するにあたり公爵邸を出て、セレスと暮らす家を求めたのだった。
二人の新居の使用人は多くない。だが晴れて夫婦と認められた主人たちの帰宅に拍手がわいた。
「お帰りなさいませ。ご結婚おめでとうございます」
代表して迎えたのは執事のダニエルだ。公爵邸に仕える執事の一人だったが、レオの独立についてきてくれた。年も四十を過ぎ、執務経験豊富な男だった。
「これで奥さまとお呼びできますわね」
セレスに微笑んだのは家政婦長のアネット。新しい館をととのえるため、女主人セレスもたびたびここを訪れている。主だった使用人たちとはもう顔なじみなのだ。
他の下男や女中たちもそろっていた。区切りとしてセレスは皆に微笑みかける。
「これからよろしくお願いしますね。皆でレオさまを支えていきましょう」
「俺よりも、セレスティーヌが不自由しないように頼む」
「仲のよろしいことで何よりですな。ごちそうさまと申し上げましょうか」
ダニエルがわざと小難しい顔でおどける。大らかに笑ってアネットが後を引き取った。
「本当のごちそうはこれからですのよ。さあお着替えくださいませ。婚礼衣装はとてもお綺麗ですけど、ソースをはねかしたら大変ですものね!」
「セレスティーヌの作法は完璧だと思うが」
「旦那さまがテーブル越しに飛ばさないとも限りませんでしょう?」
茶目っ気たっぷりに主人をからかうアネットも公爵邸からの移籍組だ。レオの母ほどの年齢でもあるし、幼いころの失敗をたくさん知っているのかもしれない。レオは渋い顔でつぶやいた。
「……もうナイフは得意になったんだが……剣が仕事道具なんだぞ」
セレスはくす、と笑ってしまった。使用人たちから心を許されているということは、レオは気さくな坊ちゃんだったのだろう。これからはそんな顔も見ることになるのだろうか。
騎士として城で見せていた落ち着きある姿。セレスと二人の時の誠実な笑み。そして――家族としての穏やかでやわらかな佇まい。変わっていくレオの印象を受けとめて、セレスは幸せの予感にふるえた。
――この人となら、きっと安らげる。