捨てられ仮面令嬢の純真

戴冠式と初めての夜

  ✻ ✻ ✻

 即位戴冠式の日がきた。
 近隣各国からの来賓もそろい、城下はすっかり祝賀ムードだ。王宮前広場では民へのほどこしも行われている。それは王の慈愛を示すためのものだが――意味があるのかどうか。この日より前に、ほどこしを受けるべき浮浪児などは街から追い出されていた。

「セレスティーヌ、今日はいちだんと慎ましやかで美しい――」

 まずは戴冠式への支度を済ませたセレスを館のホールで迎え、レオは目を細めた。飾りけの少ないローブを着てなお、セレスが輝くように思えたのだった。
 真珠色のつるりとしたローブからのぞく腕と首もと。白い肌になじむレースの仮面。しとやかに低く結われた白金の髪は「舞踏会では華やかに結い上げますので!」とコラリーが宣言していたが、このままでもレオにはじゅうぶん魅力的だった。

「レオさまも、ご立派なお姿です」

 セレスははにかんで微笑む。
 カッチリした白い騎士団の礼装は、黒に金色の縁取りがされた肩章つき。そこから右胸に金の飾り緒が垂れている。左胸に勲章をいくつもさげたレオは華やかな騎士っぷりだ。
 だがこれは自身の結婚式の時とも同じ格好で――セレスが照れてしまったのはつまり、結婚からのいろいろを思い出したからだった。

(私、レオさまの妻になってよかった)

 まだ白い結婚の状態ではあるが、気持ちは近づいていると感じられた。互いに尊敬しあい、いたわって笑いかける人がいるのは、なんて幸せなことなのだろう。
 セレスにマントを着せかけ留め金をとめてくれたのはレオだった。

「さあ、大変だが一日よろしく頼む」
「だいじょうぶです。今日はレオさまが隣にいてくださるのですよね?」
「……最近はセレスティーヌと朝晩の挨拶しかしていなかったな。放ったらかしですまない」
「お忙しかったですもの。式が終わったら少しゆっくりなさってくださいませ」

 静かに言葉をかわしながら、二人は馬車に乗り込んだ。


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