捨てられ仮面令嬢の純真

セレスの願いと浮気の疑惑

  ✻ ✻ ✻

「貧しい子どもへの施策……でございますか」

 執事のダニエルは、セレスからの質問に首をひねった。

「ええ。私の領地では教会が孤児を拾い育てたり貧しい人に施しを行うので……その支援を私もしています。王都でも同じですよね」
「だと思いますが……?」

 でもセレスは納得いかなかった。
 ならば何故、ひったくりに手を染める少年が出てくるのか。守りの手は子どもに届いていないのではないか。

「ええと奥さま、口を挟んでよろしいです?」

 後ろからコラリーが手をあげた。もちろん口出ししてほしい。街中のことならダニエルよりコラリーが詳しいのだ。

「そういうのって親がいてもやるんですよ。ていうか親がやらせてるまであるんで」
「親が? 犯罪をやらせる?」
「です。手っ取り早く稼ぐためには盗むしかないってなるんですよね。何も持たずに街に流れ着いた人は」

 手に職があれば職人組合に掛け合うこともできる。だがすぐに開業できるわけはないし道具も買い揃えなければならないのだ。とにかく一家総出で金を作りたいが肉体労働は賃金が安く、しかも子どもの体では無理だ。なら盗んでこい、となるらしい。

「そんな……」
「教会で育つ親無し子も、何も教えられず仕事のあてがなくても大人になれば放り出されます。それじゃ何かの拍子に食いっぱぐれますよ」
「そうなったら罪を犯すしかないのね……」

 もちろんすべての人間がそんな道を選ぶわけではない。地道に努力する人々を応援するのは当然なのだが、支援の手からこぼれ落ちていく者のことも捨てられないとセレスは考えた。
 物思いに沈んだセレスは、「直接見てみなくては」と決めた。


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