ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第1話 耳を疑う話

 シュナイダー公爵家の応接室で、アンドレアは夫の言葉に自分の耳を疑った。

「ポール、今なんと言ったの?」
「おいおい、しっかりしてくれよ。その耳は一体何のためについているんだ?」

 呆れ果てた様子でポールは肩をすくめた。
 その腕にはアンドレアの妹ライラがべったりとしがみついている。
 アンドレアは長椅子にひとりで腰かけており、向かいには夫と妹が寄り添いながら座っていた。
 ふたりの方がよほど仲睦まじい夫婦のように見える。
 この状況は一体どういうことだろうか。

「仕方ないわ。お姉様はもうオバさんだもの」

 小馬鹿にして小さく笑ったライラに、アンドレアは無言で眉をひそめた。
 アンドレアは今年で二十六歳になった。
 十八歳のライラにしてみれば年かもしれないが、耄碌(もうろく)するには程遠い年齢だ。

 それに三年前に年下のポールに嫁いで以来、アンドレアは公爵夫人として立派にシュナイダー家を支え続けている。
 甘やかされて育ったポールは公爵としての自覚が薄く、領地経営もアンドレアに任せきりだ。
 そんなわけで、いまやアンドレアはシュナイダー公爵家になくてはならない存在となっていた。

「それもそうだな。さすがはライラだ、頭がいい」
「ふふ、そうでしょう?」

 ライラが勝ち誇った顔を向けてくる。
 カチンと来るも、なんとかぐっとこらえた。

(駄目よ、今はポールを問いただす方が先だわ)

 自分に言い聞かせ、アンドレアは冷静さを取り戻した。

「いいか、もう一度だけ言ってやる。今度こそよく聞けよ」
「そうよ、これ以上余計な時間を取らせないで」

 いきなり呼びつけたのはそっちだろうに。
 非常識なふたりに眩暈(めまい)がしてくる。
 しかし先ほどのポールの言葉は、さすがに自分の聞き間違いかもしれない。

(むしろ聞き間違いであってほしいくらいだわ)

 そう思い、アンドレアは目線でポールに次の言葉を促した。

「シュナイダー家の跡取りは、ここにいるライラに産ませることにした。アンドレアは引き続き領地経営に専念してくれればそれでいい」

 どや顔で言ったポールは、ぽっと頬を染めたライラの肩を抱き寄せる。
 初めと一言一句違わない言葉を耳にして、アンドレアは今度こそ本気で卒倒しそうになった。
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