ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第35話 覚悟、再び

 そのころアンドレアはシュミット侯爵家でエドガーとともに暮らしていた。
 身分はケラー侯爵の落とし(だね)ということになっている。
 ケラー侯爵には市井(しせい)で作った隠し子がいたのだが、その子供は亡くなって久しかった。
 アンドレアはその庶子の名を借りて、エドガーに嫁ぐ形を取ることにした。
 婚姻前に祖父が貴族籍を与えてくれたため、シュミット家としても申し分のない縁組となった。

 そしてシュナイダー家から出奔してひと月後、アンドレアは元気な男の子を出産した。
 紛れもなくエドガーとの間にできた子だ。
 何の憂いもなく育てられることに感謝するしかない。
 あのときシュナイダー家を去る決断をした自分を、褒め称えたい気持ちのアンドレアだった。

 今日はエリーゼがシュミット家に里帰りしている。
 互いに近況報告をしあって、おしゃべりに花を咲かせていた。

「アンドレアもだいぶ母親が板について来たのではなくて?」
「エリーゼがいろいろと助言してくれるおかげよ」

 ひとしきり語り合って、アンドレアは気になっていたとことを切り出した。

「最近のシュナイダー家はどう? 何か耳にしてはいないかしら?」

 ライラがポールの後妻となって子を産んだところまでは聞いていた。
 そのことについて別段興味はない。
 だが投げ出してきた領地のことだけは、やはり気がかりに思えてしまう。

「そうね。これは噂なのだけれど、最近のシュナイダー領は少し治安が荒れてきているらしいわ」
「治安が……?」
「ここのところシュナイダー領から、他の領地に移り住む者が増えているらしくって」

 不穏な話にアンドレアは難しい顔になった。
 シュナイダー家の家令は優秀な男だ。
 先代からシュナイダー家に仕えていた彼なら、ポールを上手く導いてくれると思っていたのだが。
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