ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第7話 みじめになっちゃった?

「この事業計画書を書いたのは誰? こんなもの採択はできないわ」

 あまりにも机上の空論過ぎる。
 目を通す価値もなくて、アンドレアは書類を突き返した。

「ですが……街道の整備と拡張は急務でして……」
「分かったわ。一度現場の責任者と話をします。いいこと? 名ばかりの責任者ではなく必ず現場に携わる者を連れてきて。日程を調整して追って連絡をするわ。では次」

 朝から多岐にわたる案件を次から次にさばいていく。
 この三年でかなり無駄なやり取りを減らすことができるようになった。
 これも下の者が皆優秀なおかげだ。もっともそうなるように、アンドレアが根気よく下の者を育ててきたのだが。
 そして時間をかけて着実に信頼関係を築いてきた。
 周りの意見にきちんと耳を傾け、任せられるところは信頼をもって任せる。そんなアンドレアの姿勢が下の者のやる気を駆り立てていた。

 昼になり、アンドレアはようやく椅子から立ち上がった。
 やるべきことはエンドレスだ。どこかで区切りをつけないと、アンドレアの性格上、際限なく執務を続けてしまう。
 侍女のマリーを引き連れて、アンドレアはシェフの待つ昼食の席へと向かった。

「本日は奥様のお好きな魚料理でございます」
「そう、ありがとう」

 大きなダイニングテーブルには、ひとり分のカトラリーが並べられている。
 向かいの席は今日も何も置かれていなかった。

「ポールは?」
「本日も寝室でお召し上がりになるとの仰せです」
「そう……」

 侍女のマリーの話では、ポールはライラと部屋に籠り切りでいるらしい。

(今思えば、ライラは昔からよくこの屋敷に遊びに来ていたわね……)

 父親のケラー侯爵はやってくるたびに、ほぼ毎回ライラも一緒に連れてきていた。
 ケラー侯爵がこの屋敷に頻繁に訪れるのは、アンドレアが粗相をしていないか確認に来ているものとばかり思っていた。
 だがもしかしたら、あれはポールにライラを会わせるためのフェイクだったのかもしれない。
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