ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第8話 禁断の蓋

 その日の夜、やっと戻った寝室でアンドレアは息をついていた。
 こうして落ち着くと、どうしても昼間のライラとのやり取りが繰り返し思い出されてしまう。

「マリーはもう我慢がなりませんっ!」
「わたくしだって同じ気持ちよ、マリー」

 ずっと仕事をしていた方が気が紛れていいのではないか。
 しかし現実逃避でやり過ごすのは、ライラに屈したようで面白くない。

「今夜はハーブティを用意してちょうだい」
「かしこまりました、アンドレア様」

 神経が高ぶって眠れる気がしなかった。
 こうしている間にも、得意げなライラの嘲笑が頭に浮かぶ。

(このまま行くと、益々あの()の増長を許すだけよね……)

 使用人たちを味方につける手もあるが、ポールが当主である以上アンドレア側につく人間はまずいないだろう。
 時間をかければ可能かもしれないが、その間にライラが子を成した場合、さらに幅を利かせてくるのは目に見えている。

「……あまり気乗りがしないのだけど」

 ため息とともに呟いた。
 敵の出方を知らないことには、対策を練るのは難しい。
 追い込まれたこの状況で、取れる手立てがまだあるのなら迷う理由はないはずだ。

(大丈夫よ、アンドレア。目的はふたりの現状を知ること。これさえ見誤らなければ、手段に溺れてしまうことはないわ)

 先代シュナイダー公爵が遺したものから学び取った大きな教えだ。
 領地経営のノウハウを彼から直接教わったことはない。だが引き継いだものの多くが、先代が辿った努力という名の軌跡だった。
 覚悟を決めて、アンドレアは部屋の一角を見やった。

「マリー、そこに絵があるでしょう? それを壁から外してちょうだい」
「こちらでございますか?」

 ずっと飾られていた年代物の絵画を、マリーは慎重な手つきで下に降ろした。
 四角い日焼けの残る壁に不自然な丸い金属の板が現れる。その板にはヒンジが付いており、開けられる仕様となっていた。

「アンドレア様、これは通気口か何かでしょうか……?」
「今に分かるわ。いいからその蓋を開けてちょうだい。その代わり、開けている間は絶対に物音を立てないで。いいわね?」
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