ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第10話 俺だったら

(エドガーがどうしてここに)

 突然のこと過ぎてアンドレアは言葉を失った。

「ようこそ、我が商会へ」

 呆然と立つアンドレアに、エドガーは片手を伸ばしてくる。
 握手を求められたのだと、とっさに手を差し出した。
 自分とは違う大きな手がアンドレアの細い手をがっちり掴む。
 力強い熱に戸惑って、アンドレアは無意識に手を引こうとした。
 簡単に握手は(ほど)け、長い指先がこの手のひらをなぞりながら離れていく。

(本当にエドガーなのよね……?)

 何しろ顔を合わせるのは数年ぶりのことだ。
 一方的な婚約破棄は人を使って事務的に伝えられ、花嫁姿を見せることもなく関係は書類一枚で断たれてしまった。
 この胸の痛みは罪悪感だろうか?
 最終的にポールに嫁ぐことを決めたのはアンドレアだ。
 だがケラー家から契約不履行の賠償金が支払われ、エドガー側シュミット家も納得してそれを受け取った。
 婚約は既に過去のものとなり、すべてが円満に終わったことだった。

「どうぞおかけください。わざわざご足労いただかなくても、呼び立てがあればこちらが出向きましたのに」

 促されて元の位置に座ると、向かいのソファにエドガーも腰を下ろした。
 来る前の威勢はどこへやら、他人行儀なエドガーを前にアンドレアは何を言えばいいのか分からなかった。

(もしかしてエリーゼからライラのことを聞いたのかしら)

 ケラー侯爵家に里帰りしたとき、義姉のエリーゼは弟のエドガーと一度話をすると約束してくれた。
 婚約者のライラをポールに寝取られたと聞いて、早速探りを入れにきたのではないだろうか。
< 24 / 138 >

この作品をシェア

pagetop