ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第3話 白い結婚

 招待された夜会で、アンドレアはポールと連れ添って歩いていた。
 カクテルを手にポールは上機嫌だ。
 考え込んでいたせいか、すれ違った貴族とぶつかりそうになる。
 そこをポールがアンドレアの肩をさりげなく抱き寄せた。

(わたくしをきちんと妻扱いするというのは本当みたいね)

 (はた)から見れば、アンドレアとポールは仲睦まじい夫婦に見えることだろう。
 だがそれも公の場だけのことだ。
 ふつふつと怒りがこみあげてくる。しかし社交の場で、あのとんでも話を蒸し返すことなどできなかった。

 あのやり取りのあと、話を無理やり切り上げられてしまった。
 それからというものポールはまったく話し合いには応じようとせず、アンドレアから逃げ回ってばかりいる。
 領地の仕事で忙しいアンドレアは上手いこと時間が取れなくて、ようやく今日ポールの顔を見られたくらいだった。

「これはシュナイダー公爵、相変わらず奥方と仲がよろしいですな」
「美しい妻に近づこうとする(やから)が多くてね。こうして見せつけているというわけだよ」

 どの口が言うんだと、顔が引きつりそうになる。
 あんなことを言われたあとでは、貞淑な妻の演技を続けるのも馬鹿らしくなってくる。
 しかし社交はシュナイダー公爵家全体への利益のためだ。
 ポールのためではないと、アンドレアはいつも通りに控えめに淑女の笑みを浮かべた。

「それはそうと、聞きましたぞ。シュナイダー領は相当景気がいいようですな」
「あの程度なら普通のことだと思うが」
「いやいや、我が領はなかなか厳しくて。シュナイダー公爵の采配は誠に素晴らしいと、皆が口々に申しておりますぞ。ぜひ領地経営の秘訣をお伺いしたいものですな」
「なに、当たり前のことを当たり前に指示するだけのこと。それですべてが上手く回るというものだ」
「なんと! さすがはシュナイダー公爵。凡人には理解しがたい才覚をお持ちだ」

 過剰に持ち上げてくる貴族の言葉に、ポールは鼻高々だ。

(そりゃポールは楽でしょうよ)
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