ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第29話 糸口

 逃げ出すという選択肢が増えただけで、アンドレアの心の余裕は随分と増していた。
 そのことも視野に入れて、考えを練り直さなくては。

(でもどうやって……?)

 逃亡するとなると、産む前か、産んだ後に逃げ出すか。
 それでまた事情が変わってくる。
 住まいや生活をどうするかも考えなくてはならない。
 当然領地経営は放り出すことになる。
 そうするとポールが執拗に追っ手を送り付けてくる可能性は高いだろう。
 エリーゼたちに匿ってもらうとしたら、見つかったときに迷惑をかけるのは避けられない。
 見つからなくとも、いつかポールに見つかるかもしれないという恐怖は生涯続く。

(日々怯えて暮らし続けるのも、気が重い話よね……)

 問題が山済みで、逃げるという選択自体に無理があるように感じてきてしまう。

「ポールに追われることなく、安心して堂々とこの子を育てられるのが理想なのだけれど……」

 そんな都合のいい未来はどう考えても作り出せそうにない。
 やはりシュナイダー家にいたまま、我が子を守りつつライラを失墜させるしか方法はないのだろうか。
 だからと言って、ポールたちのようにライラの子の命を奪うような暴挙にアンドレアが出られるはずもなかった。

(生まれてくる子供に罪はないもの……)

 堂々巡りで悩むうちに、一か月の時が過ぎた。

(逃げるにしても戦うにしても、そろそろどうするか判断しなくては計画の準備が遅れてしまうわね……)

 寝台に入ったあともなかなか寝付けないでいたアンドレアに、マリーが声をかけてきた。

「アンドレア様、あまり思い悩まれてはお体に差し障ります」
「ええ、もう眠るわ」
「あの、もしよろしければしばらくこちらを灯しましょうか?」

 マリーが手にしていたのは天使の形をした蝋燭(ろうそく)だった。

「それはこの前エリーゼが持ってきてくれた……」
「はい、アロマキャンドルでございます」
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