ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第30話 束の間の

「何度もこちらに来させてごめんなさい」
「いいのよ、アンドレアとお腹の子のためだもの」

 幾度目かの訪問にも嫌な顔ひとつせず、エリーゼは足繁くシュナイダー家に通ってくれていた。
 表向きアンドレアのご機嫌伺いだったが、その実は計画実行のための伝令役だ。

「今日は息子も連れてきたのよ」
「アンドレアおばしゃま、ごきげんよう」
「まぁ、随分と大きくなって」

 エリーゼの息子は五歳のいたずら盛りだ。
 マリーの手を引っ張って、落ち着きなく飛び跳ねている。

「マリー、僕とかくれんぼ!」
「かくれんぼならマリーも負けませんよ」
「坊ちゃま、よろしければヘレナも混ぜていただけますか?」
「うん、いいよ。いっしょにあそんであげる」

 三人は仲良く手をつないで、賑やかに隣の部屋へと出て行った。

「下の子もやっと離乳が済んだの。夜中の授乳はたいへんだったけれど、なんだかさみしくもあるわね」
「エリーゼもたいへんなときなのに、本当にごめんなさい」
「そんなことはもう言わないで。わたくしは好きでやっているのよ? それに授乳以外は乳母任せだもの。アンドレアは何も心配しなくて大丈夫よ」

 ありがとうとアンドレアは素直に頷いた。
 エリーゼのおっとりとした雰囲気は、いつでもアンドレアの心も(ほぐ)してくれる。
 そんなエリーゼが、周囲を窺うように声のトーンを落とした。

「それで準備の方は進んでいるの?」
「順調だと思うわ。不測の事態が起きない限り、そう頻繁には連絡は来ないはずだから」
「そう。あとは信じて待つしかないわね」

 エリーゼの言葉に、アンドレアは無言で頷いた。
 アンドレアはシュナイダー家を出ることを最終的に決意した。
 そのための準備は着々と進められている。
 現段階で領地経営は、アンドレアがほぼ手を貸さない状態でもそれなりにうまく回っている。
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