ここまでコケにされたのだから、そろそろ反撃しても許されますわよね?

第34話 ずれ

「見て、お父様! これポールに買ってもらったのよ!」

 首に豪華なネックレスを下げたライラは得意げにポーズを取った。
 アンドレアの死後、ライラは無事に女児を出産した。
 それから数か月が経ち、シュナイダー家ではアンドレアの影も薄くなり始めている。

(ライラもどうせ産むのなら、男児を産んでくれればよかったものを)

 不満は残るが、正式にポールとの婚姻を発表したあとでまた子を()せばいい。
 対外的にはライラの子は、アンドレアの遺児と発表するようケラー侯爵はポールに助言をした。
 その方が貴族たちから同情が集まる上、姉の遺した子のためにライラがポールに嫁いだという美談が作り出せるからだ。

「ねぇ、お父様。ライラ、これをつけて早く舞踏会に行きたいわ!」
「まだ駄目だ」
「どうして? ライラ、もう公爵夫人になったのよ?」
「一年は待てと言っただろう。先妻の死後すぐでは、ポール様の体裁が悪くなる」
「もう! 死んでからもライラの邪魔するなんて! アンドレアお姉様なんて地獄に落ちてればいいんだわ」

 籍は入れたものの、ポールとライラの婚姻は公式発表には至っていない。
 今後ポールが王位に立つことを考えれば、やはり一年は待つのが得策だろう。

(それにしてもエドガー・シュミットは好都合だったな)

 アンドレアが急死したあと、シュナイダー家との縁が切れないようケラー侯爵はすぐにライラを嫁がせた。
 残った問題はエドガーとの婚約だ。
 面倒だが契約破棄に向けて手続きを取ろうとしたところで、エドガーの方からライラとの婚約を解消したいと申し出てきた。
 ケラー侯爵としては願ったり叶ったりだ。
 しかもエドガーから少なくない違約金が支払われたとくれば、まさに渡りに船だったとしか言いようがない。

「ご来客中に申し訳ございません。ライラ様、少しよろしいでしょうか?」
「なに?」
「夕べからお子が熱を出されておりまして……」
「で? それがなに?」
「え……ミルクも吐き戻されている状態なので、念のためライラ様にご報告をと……」

 困惑気味に侍女が答えると、途端にライラは不機嫌になった。

「そんなこといちいち言いに来ないで。あの子の管理はあなたたちの責任でしょう?」
「ですが……」
「なに? わたしに口答えしようっていうの?」
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