さぁ殿下、流行りの婚約破棄をいたしましょう

何事にも流行りというものがある。

ドレスの形、髪型やメイク、お菓子の種類、劇の演目、あまり歓迎できないものには病まで。服装や言葉、思想などの行動様式が一時的に持て囃され、世間に大きく広まることをいう。

そして、貴族の子息令嬢が通う王立学園で流行の最先端といわれているのが、今まさに行われている〝コレ〟である。

「セシリア、お前との婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」

レスコー伯爵家主催のパーティーの最中に、品のない大きな声が広間に響いた。

突然突きつけられた宣言に驚き、呆然とする婚約者の侯爵令嬢セシリア様。

レスコー伯爵令息ダミアン様は、自身の誕生日パーティーで婚約破棄を宣言し、満足げなご様子。そんな彼に嬉しそうに寄り添う女性の姿。

(あらら、これで何人目かしらね)

この半年で何度見聞きしたかしれないお決まりのセリフと光景だけれど、招待客の間にはこれまで以上のざわめきが広がっていく。

ある者は眉を顰め、ある者は嘲笑している。

そんな中、私、公爵令嬢シャルロット・ルクレールは、場違いな羨望の眼差しを向けた。

(あぁ、なんて羨ましい。私も早く婚約破棄を言い渡されたいわ……!)


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