継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

第2話 弟から届く手紙を読むことが、無能な私の幸せです。

 お姉様のご成婚から6年の月日が過ぎた。

 アデルハイム国は今日も平和だ。
 現国王は御年五十六歳。まだご健在で国務の中心にいらっしゃるし、跡継ぎ問題に火がついたりもしていない。

 お姉様が第三王子エヴァン殿下とご成婚された折、一度だけ国王陛下とお話をすることが出来た。
 とても優しく微笑まれる方だったのを覚えているし、お父様に爪の垢を煎じて飲ませたいって、幼かった私は思ったものよ。

 だって、お父様はいつだって継母の味方で、私には冷たい眼差ししか向けてくれなかったんですもの。
 頭を撫でてなんて我が儘を言わないから、せめて、昔のように私をヴェルって呼んで欲しかった。

 でも、そのお父様も三年前──お姉様のご成婚から三年後に、急な病でこの世を去った。もう一度だけで良いからと願った幼い私の小さな夢が叶うことは、未来永劫失くなってしまった。

 月日が過ぎるのは早いものね。

 亡きお父様の執務室で届いた手紙を仕分けながら物思いに耽っていると、一通の手紙が目についた。帝国のファレル伯爵領にいらっしゃるお祖母様のもとで、勉学に励む弟のセドリックからのものだ。
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