継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

第15話 「ヴェルヘルミーナ、さぁ、君の記憶の扉を開くんだ」

 額が熱くなる。

 私になら出来る。全てを、私の受けてきた痛みを、ここに──

「ヴェルヘルミーナ、さぁ、君の記憶の扉を開くんだ」

 ヴィンセント様の、耳に心地よいバリトンボイスが響くと、鏡にぼんやりと何かが浮かび上がった。それは次第に鮮明なものとなる。

 映し出されたのは、幼い私。
 暗い書庫で、重たい本を投げつけられ「許してください、お継母様」と繰り返し訴える姿だった。

 叩きつけられ、汚れた水を浴びせられ、引きずられながら連れていかれたのは狭い屋根裏部屋。そこに押し込められる姿は、貴族の子女には見えない。使用人だってもう少し小綺麗な服装をしているだろう。

 みすぼらしさで、ぼろのような服を着せられた幼い私は、罵詈雑言に耐えながら震えていた。

 あぁ、やっと出来た。
 これが私に目覚めた能力──記憶を映し出す力。もう、私は無能なんかじゃない!

 フォスター公爵夫人が眉をひそめて顔を逸らし、その肩を公爵様がしっかりと抱きしめられた。ペンロド公爵夫妻は黙って鏡を見つめ、そろって顔面を青くされている。
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