継母に無能と罵られてきた伯爵令嬢ですが、可愛い弟のために政略結婚をいたします

第5話 今、結婚するわけにはいかないのに!

 扇子の先端で肩をパシパシと叩かれ、私の背中を冷たい汗が伝い落ちた。

 突然の結婚という言葉に、私の頭は真っ白になる。

 だって私はセドリックのために、継母からレドモンド家を守らないといけないのよ。

 セドリックからの手紙には、アカデミーに通うんだって書いてあったわ。これから、まだたくさん学ぶことがあるのよ。今、家に戻すわけにいかない!

 それに、私がロックハート家へ嫁いだりしたら、ペンロド公爵家に連なる諸侯はどう思うかしら。姉妹そろって寝返った、ペンロド公爵様を裏切ったと見られかねないわ。
 お姉様のために、ロックハート家と程よいお付き合いをとは考えていたけど──

「……申し訳ありませんが、セドリックがアカデミーを卒業して戻る日まで、結婚する気はありません」
「お黙りなさい!」

 ぴしゃりと言い放つ継母は、冷たい眼差しで私を見下ろしてくる。
 まるで薔薇の棘が突き刺さるようだ。
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