90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦
翌日、定時になる少し前に、促進販売部から会議室に温かいお茶を10人分用意して欲しいと頼まれ、時間が時間なのでパートさんに頼めず、私が持って行くことになった。

ここ2年ほどは、ペットボトルを出すだけで楽だったのにとぼやきながら、お盆にのせて運んでいたのだが、溢さないことに集中し足元に注意が向いていなかった私は、ヒールの先で前のめりになり、手に持っていたお盆ごと向井さんに助けられた。

「あの…なぜ向井さんと居酒屋にいるんでしょうか?」

「俺が誘ったからだろ」

「そうなんですけど…助けたお礼にちょっと付き合えが、なぜ居酒屋なんですかね?お茶は無事で助かりましたけど、私、膝頭打ったんですよ。助けられてないですよね?」

ビールを美味しそうに飲む向井さんに向けて、私は、渡されたメニューをパラパラめくりながら、抗議中。

「助けただろ…あのまま倒れてたら熱いお茶をかぶってたかもしれないぞ」

「だからって、私を支えないで、お盆を支えるって、なくないですか?」

「触ったら、セクハラとかチカンって言うだろ」

「言うかもしれないですけど、時と場合によります」

「…時と場合ね」

「そうです…」

「そりゃ、悪かった。今度似たようなことがあったら、真っ先にお前を助けてやるよ」
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