90秒で始まる恋〜彼と彼女の攻防戦
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「莉子ちゃん、おはよう」
「梶岡さん…おはようございます」
「待ってよ。行く所は同じ方向なんだし、一緒に行こう」
通勤路には沢山の我が社の社員が歩いているのに、私の隣で笑顔で歩いている梶岡さんは迷惑でしかない。
「…おれ、莉子ちゃんのこと気にいってるんだよ。おれに乗り換えなよ」
「私に構わないでください。迷惑です」
「その、つれない態度…俄然振り向かせたくなるんだって、わからない⁈」
言葉の通じない相手にイラッときて足を止めてしまったら、『邪魔』と、真後ろで立つ男性に私は逃げだしたくなった。
「歩道の真ん中で立ち止まってて、迷惑。さっさと歩けよ」
イケメンが不機嫌な顔で冷たく言い放つ声に、ゾッとする恐怖を感じていた。
「…お、おはよう、ございます…」
「向井、おはよう…ご機嫌斜めか?」
「はぁっ?ほら、さっさと歩け…通行の邪魔だ」
「はいはい。莉子ちゃん、またね」
梶岡さんは促されて先を歩いていき、向井さんは、こちらに冷ややかに視線だけを向けた後、何も言わずに先を歩いていった。
その現場を女子社員に見られていて、まるで私の方が彼らにまとわりついているかのように噂される。