忘れられない瞳の先で

序章「届かない恋」

大学時代、私には忘れられない人がいた。
 同じサークルで、誰よりも真っ直ぐで、誰よりも眩しい存在――西園寺拓也。
 けれど彼には、いつも隣に寄り添う女性がいた。片岡由梨。
 周囲は誰もが口を揃えて「二人は付き合っている」と噂した。
 私はその言葉を信じ、胸に芽生えた想いを封じ込めた。

 笑いかけることも、名前を呼ぶこともできず、ただ心の奥で「好き」と呟くだけの日々。
 結局、私の片想いは彼に知られることなく、大学生活は終わった。

 ――あれから数年。
 社会人となり、大手商社「鳳城商事」で静かに働く毎日。
 私はようやく彼を忘れられたと思っていた。

 けれど、運命は残酷だ。
 あの日、会議室の扉を開いた瞬間、私は時を巻き戻されたように立ち尽くした。

 そこにいたのは、紛れもない彼――西園寺拓也。
 変わらぬ鋭さを宿した黒曜石のような瞳。
 背筋を伸ばし、凛と立つその姿。
 私の心臓は痛いほどに跳ね上がり、呼吸を忘れる。

 そして、その隣には――やはり由梨がいた。
 華やかに微笑みながら、彼の腕に自然と触れている。
 まるで当然のように。

 胸の奥で、忘れたはずの痛みが蘇る。
 私はまだ、この人を忘れられていなかった。
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