忘れられない瞳の先で

第13章「同期の支え」

 コピー室で拓也に問い詰められたあの日から、心はずっと落ち着かなかった。
 由梨の言葉、拓也の沈黙、そして自分の不器用な嘘。
 すべてが胸の中で渦巻き、呼吸が苦しい。

 そんな私を颯真はすぐに見抜いた。

「片山、最近ちょっと元気ないよな」

 休憩室で声をかけられ、曖昧に笑ってごまかす。
 けれど、彼はそれ以上に踏み込んでこようとした。

「無理してるの、分かる。俺、同期だからな。お前のそういう顔、嫌ってほど見てきた」
「……そうかな」
「そうだよ。俺には隠せない」

 からかうように笑いながらも、眼差しは真剣だった。
 視線を合わせられず、私はテーブルの上のコーヒーに目を落とす。

 すると颯真は、そっと私の手に触れた。
 驚いて顔を上げると、彼は優しく微笑んでいた。

「……片山。もし辛かったら、俺を頼っていいんだよ」
「颯真……」
「俺は、お前を泣かせたくない」

 その一言に、胸が熱くなった。
 大学時代からずっと、拓也のことしか見てこなかった。
 でも颯真は、いつも隣にいて、自然に私を気遣ってくれていた。

 心が揺れる。
 颯真の優しさに触れると、涙が零れそうになる。

「ありがとう……」

 かすれた声でそう答えると、彼は子どものように笑ってみせた。

「よし、それでいい」

 けれど、その無邪気な笑顔の奥に、どこか切なげな影が揺れているのを私は見逃さなかった
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