忘れられない瞳の先で

第16章「嫉妬の炎」

 週明けの夕方。
 仕事を終え、エントランスに向かう途中で颯真に呼び止められた。

「片山、ちょっといい?」
「……どうしたの?」

 その表情はいつもの軽さとは違い、どこか切実な色を帯びていた。
 連れられて外に出ると、夕闇の風が頬を撫でた。
 オフィスビルの脇、街灯に照らされた場所で彼は立ち止まり、まっすぐこちらを見つめる。

「俺……ずっと言えなかったんだけど」
「……」

 胸がざわめく。
 颯真の声は震えていた。

「片山のことが好きだ。初めて会ったときから、ずっと」

 息が詰まる。
 思いもしなかった言葉が、夜の空気に響いた。

「拓也じゃなくて、俺を見てほしい。俺なら、お前を絶対に泣かせない」

 その真剣な瞳に、心が大きく揺れる。
 どう返せばいいのか分からず、唇が震えた。

「颯真、私は……」

 その瞬間。

「……何をしている」

 低い声が闇を裂いた。
 振り向くと、拓也が立っていた。
 鋭い黒曜石の瞳が、炎のように燃えている。

「西園寺さん……」
 颯真が眉をひそめる。

「片山に告白するつもりか」
「悪いか? 俺は本気だ」

 二人の視線がぶつかる。
 その緊張感に、胸が押し潰されそうになる。

「……片山は、俺が守る」
「それを決めるのは彼女だ」

 颯真の言葉に、拓也の拳がわずかに震えた。
 私は慌てて間に入り、二人を見上げる。

「やめて……お願い」

 声が震え、涙が滲む。
 どうして、こんなことになってしまったのだろう。
 誰も傷つけたくないのに――私のせいで、二人の瞳が火花を散らしている。
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