忘れられない瞳の先で
第19章「逃げられない想い」
その日も、私は無意識に拓也を避けていた。
資料を届けるべきタイミングを遅らせ、席にいない時間を狙って机に置く。
視線が合いそうになれば、すぐに逸らす。
――まるで、逃げることだけが自分を守る術のように。
けれど、逃げ続けることはできなかった。
「……片山」
帰り際、エレベーターホールで彼に呼び止められた。
その声は低く、逃げ場を与えない響きを持っていた。
「また避けるつもりか?」
「……そんなつもりじゃ」
「嘘だ」
拓也は一歩踏み込み、私の肩を掴む。
強い力に驚き、息が詰まった。
その瞳は鋭く、それでいて必死に揺れている。
「どうして俺から逃げる? 俺の気持ちを聞いたはずだ」
「……信じられないんです」
「まだ由梨のことを気にしているのか」
言葉に詰まる。
彼は深く息を吐き、私を真っ直ぐに見つめた。
「何度でも言う。俺は、由梨を愛したことは一度もない。好きなのは――お前だけだ」
胸の奥が熱くなる。
だけど、怖かった。
信じた瞬間に、また裏切られる気がして。
「……でも、私……」
声が震え、涙が滲む。
その瞬間、拓也は私を強く抱きしめた。
「逃げてもいい。怖いなら拒んでもいい。……でも俺は、もうお前を手放さない」
低く熱を帯びた声が耳元に響く。
彼の胸の鼓動が、私を締めつけるように伝わってきた。
「紗奈……俺から、逃げられない」
涙が溢れた。
それは拒絶の涙ではなく、心の奥でようやくほどけた糸が零した涙だった。
私は彼の胸に顔を埋めながら、小さく震える声で囁いた。
「……どうして、今まで言ってくれなかったの」
問いかけに、彼は苦く笑った。
けれどその笑みは、どこまでも優しくて切なかった。
資料を届けるべきタイミングを遅らせ、席にいない時間を狙って机に置く。
視線が合いそうになれば、すぐに逸らす。
――まるで、逃げることだけが自分を守る術のように。
けれど、逃げ続けることはできなかった。
「……片山」
帰り際、エレベーターホールで彼に呼び止められた。
その声は低く、逃げ場を与えない響きを持っていた。
「また避けるつもりか?」
「……そんなつもりじゃ」
「嘘だ」
拓也は一歩踏み込み、私の肩を掴む。
強い力に驚き、息が詰まった。
その瞳は鋭く、それでいて必死に揺れている。
「どうして俺から逃げる? 俺の気持ちを聞いたはずだ」
「……信じられないんです」
「まだ由梨のことを気にしているのか」
言葉に詰まる。
彼は深く息を吐き、私を真っ直ぐに見つめた。
「何度でも言う。俺は、由梨を愛したことは一度もない。好きなのは――お前だけだ」
胸の奥が熱くなる。
だけど、怖かった。
信じた瞬間に、また裏切られる気がして。
「……でも、私……」
声が震え、涙が滲む。
その瞬間、拓也は私を強く抱きしめた。
「逃げてもいい。怖いなら拒んでもいい。……でも俺は、もうお前を手放さない」
低く熱を帯びた声が耳元に響く。
彼の胸の鼓動が、私を締めつけるように伝わってきた。
「紗奈……俺から、逃げられない」
涙が溢れた。
それは拒絶の涙ではなく、心の奥でようやくほどけた糸が零した涙だった。
私は彼の胸に顔を埋めながら、小さく震える声で囁いた。
「……どうして、今まで言ってくれなかったの」
問いかけに、彼は苦く笑った。
けれどその笑みは、どこまでも優しくて切なかった。