忘れられない瞳の先で

第20章「永遠の約束」

 夜風が吹き抜けるオフィスのテラス。
 遠くの街灯りが瞬き、都会のざわめきがかすかに耳に届く。
 拓也の腕に抱きしめられながら、私は涙に濡れた頬を彼の胸に押しつけていた。

「……全部話す」

 拓也の声は低く、しかし揺るぎなかった。
 彼はゆっくりと私を見下ろし、その瞳に真実を映し出す。

「大学の頃から、俺はお前が好きだった。けれど、由梨が勝手に『付き合ってる』と噂を流した。……俺はそれを否定しなかった。お前を守るためだ」
「守る……?」
「お前が周りから嫉妬の矢面に立つのを恐れた。だから、あえて誤解を放置した。でも結果的に、お前を一番傷つけた」

 苦しげに告げる彼の表情に、胸が熱くなる。
 私がずっと信じていた噂は、真実ではなかった。
 あの沈黙は、私を守るためのものだった――。

「俺はもう二度と間違えない。これからは誤解させるようなことはしない。……だから信じてほしい」

 拓也は私の両手を取り、その手の甲に唇を落とした。
 その仕草に、視界が再び涙で滲む。

「紗奈。お前が必要だ。これからの人生、隣にいてほしい」

 静かな夜の中、その言葉だけが鮮やかに響いた。
 私は震える唇を噛みしめ、涙を拭いながら頷いた。

「……私も。大学の頃から、ずっと……拓也さんが好きでした」

 彼の瞳が揺れ、次の瞬間、強く私を抱き寄せた。

「ありがとう……紗奈」

 彼の声が耳元に落ちる。
 その温もりに包まれながら、もう二度と離さないと誓うように私も彼の背中に腕を回した。

 夜空には雲が流れ、月が姿を見せる。
 白い光が二人を照らし、静かな祝福のように降り注いでいた。

 ――永遠に、彼の隣で。
 その約束を胸に刻みながら、私は静かに微笑んだ。
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