忘れられない瞳の先で
第3章「同期の笑顔」
午後のオフィスは、電話の着信音やキーボードの打鍵音が絶え間なく響いていた。
私は資料を抱えてフロアを歩き、開発部のデスクに向かう。
「片山、助かるよ」
声をかけてきたのは颯真だった。
書類を受け取ると、子どものように明るく笑う。
その笑顔に、思わずこちらも微笑んでしまう。
「いつも無理言ってごめんな」
「ううん。これも仕事だから」
「でも、片山は真面目すぎるんだよな。……もう少し肩の力抜いてもいいのに」
軽く冗談めかして言う声に、不思議と心が温かくなる。
颯真はいつだって自然体で、誰に対しても壁を作らない。
大学時代の拓也とは、正反対のタイプだ。
――そんな時。
背後から低い声が聞こえてきて、心臓が跳ねた。
「……楽しそうだな」
振り返ると、そこには拓也が立っていた。
営業部のファイルを片手に、黒曜石の瞳でじっとこちらを見ている。
その視線には、どこか冷たさと苛立ちが混じっていた。
「西園寺さん。こんにちは!」
颯真が気さくに声をかけるが、拓也は短く頷くだけ。
視線は終始、私に注がれている。
「片山、もう戻る時間じゃないのか」
「え、あ……そうですね」
急かすような声音に、胸がざわめく。
颯真は不思議そうに眉を寄せながらも、気づかぬふりをして笑った。
「じゃあ、またな。片山」
軽やかに手を振る颯真。
その無邪気な笑顔を見送りながら、私は背後から刺さるような拓也の視線を感じていた。
――どうして。
どうして彼が、あんな顔をするのだろう。
心の奥で抑えていた感情が、また揺さぶられていく。
私は資料を抱えてフロアを歩き、開発部のデスクに向かう。
「片山、助かるよ」
声をかけてきたのは颯真だった。
書類を受け取ると、子どものように明るく笑う。
その笑顔に、思わずこちらも微笑んでしまう。
「いつも無理言ってごめんな」
「ううん。これも仕事だから」
「でも、片山は真面目すぎるんだよな。……もう少し肩の力抜いてもいいのに」
軽く冗談めかして言う声に、不思議と心が温かくなる。
颯真はいつだって自然体で、誰に対しても壁を作らない。
大学時代の拓也とは、正反対のタイプだ。
――そんな時。
背後から低い声が聞こえてきて、心臓が跳ねた。
「……楽しそうだな」
振り返ると、そこには拓也が立っていた。
営業部のファイルを片手に、黒曜石の瞳でじっとこちらを見ている。
その視線には、どこか冷たさと苛立ちが混じっていた。
「西園寺さん。こんにちは!」
颯真が気さくに声をかけるが、拓也は短く頷くだけ。
視線は終始、私に注がれている。
「片山、もう戻る時間じゃないのか」
「え、あ……そうですね」
急かすような声音に、胸がざわめく。
颯真は不思議そうに眉を寄せながらも、気づかぬふりをして笑った。
「じゃあ、またな。片山」
軽やかに手を振る颯真。
その無邪気な笑顔を見送りながら、私は背後から刺さるような拓也の視線を感じていた。
――どうして。
どうして彼が、あんな顔をするのだろう。
心の奥で抑えていた感情が、また揺さぶられていく。