忘れられない瞳の先で
第5章「由梨の誘惑」
午後の会議が終わり、私は資料をまとめるために会議室へ戻った。
ドアを開けた瞬間、視界に飛び込んできた光景に、足が止まる。
「拓也くん、今日のプレゼン、本当に素晴らしかったわ」
由梨の艶やかな声。
長い髪を揺らしながら、彼の胸元へと手を伸ばす。
「ほら……ネクタイ、少し曲がってる」
細い指が拓也のネクタイに触れる。
拓也は少し後ずさるように身を引いたが、由梨は構わず微笑んで近づいた。
「……自分で直せる」
「遠慮しないで。私に任せて」
距離が近い。
その姿は、まるで恋人同士のように親密だった。
胸がきゅっと締めつけられる。
――やっぱり。
二人は、ただの同僚じゃない。
「ねえ、拓也くん。今夜、食事に行かない? 二人だけで。……久しぶりにゆっくり話したいの」
由梨が囁くように言葉を重ねる。
私はドアの隙間から見ていることしかできない。
声をかけようとした唇は、震えて動かなかった。
「……由梨、それは――」
拓也の声が低く響く。
けれど続きは聞こえなかった。
由梨の笑顔が彼の視線を塞ぎ、私の心をさらに掻き乱す。
手にしていたファイルを強く握りしめる。
呼吸が浅くなる。
見てはいけない、そう分かっているのに、視線を外せなかった。
その時、由梨がふとこちらに気づいた。
ほんの一瞬だけ、私の方へ視線を流し――口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
居場所を失ったように、私はその場から駆け出した。
廊下を走る足音が、自分の心臓の音と重なる。
――もう、期待なんてしない。
そう言い聞かせながらも、涙は止まらなかった。
ドアを開けた瞬間、視界に飛び込んできた光景に、足が止まる。
「拓也くん、今日のプレゼン、本当に素晴らしかったわ」
由梨の艶やかな声。
長い髪を揺らしながら、彼の胸元へと手を伸ばす。
「ほら……ネクタイ、少し曲がってる」
細い指が拓也のネクタイに触れる。
拓也は少し後ずさるように身を引いたが、由梨は構わず微笑んで近づいた。
「……自分で直せる」
「遠慮しないで。私に任せて」
距離が近い。
その姿は、まるで恋人同士のように親密だった。
胸がきゅっと締めつけられる。
――やっぱり。
二人は、ただの同僚じゃない。
「ねえ、拓也くん。今夜、食事に行かない? 二人だけで。……久しぶりにゆっくり話したいの」
由梨が囁くように言葉を重ねる。
私はドアの隙間から見ていることしかできない。
声をかけようとした唇は、震えて動かなかった。
「……由梨、それは――」
拓也の声が低く響く。
けれど続きは聞こえなかった。
由梨の笑顔が彼の視線を塞ぎ、私の心をさらに掻き乱す。
手にしていたファイルを強く握りしめる。
呼吸が浅くなる。
見てはいけない、そう分かっているのに、視線を外せなかった。
その時、由梨がふとこちらに気づいた。
ほんの一瞬だけ、私の方へ視線を流し――口元に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
居場所を失ったように、私はその場から駆け出した。
廊下を走る足音が、自分の心臓の音と重なる。
――もう、期待なんてしない。
そう言い聞かせながらも、涙は止まらなかった。