忘れられない瞳の先で
第7章「由梨の宣告」
午後の廊下。
窓から射し込む光が白い床に反射し、人気のない空気がひんやりと漂っていた。
コピーを取りに行こうと歩いていた私の背後から、ヒールの音が響いてくる。
「片山さん」
呼び止められて振り返ると、そこには由梨が立っていた。
赤い唇にゆるやかな笑みを浮かべ、長い髪を肩に流している。
その視線は、どこか冷ややかだった。
「少し、お話があるの。いいかしら?」
「……はい」
促されるままに休憩スペースへと足を運ぶ。
人の気配がないことを確認すると、由梨はゆっくりと口を開いた。
「単刀直入に言うわ。拓也には近づかないで」
淡々とした声。
けれどその響きは鋭く、心を抉った。
「……どういう、意味ですか」
「そのままの意味よ。拓也は私にとって大切な人。大学の頃から、ずっとね」
大学の頃――。
その言葉に、胸の奥が痛んだ。
あの頃、彼女が拓也の隣にいた姿を何度も見た。
笑い合い、肩を並べる二人を。
だから私は、何も言えなかった。
「あなたも気づいているでしょう? 彼は私のそばにいるべき人なの。社内の誰もがそう思ってる」
由梨の瞳は揺らがない。
勝ち誇るでもなく、当たり前の事実を述べるように告げられる。
私の心は一気に沈んでいく。
「……分かりました」
絞り出した声は、震えていた。
由梨は満足げに微笑み、踵を返す。
「物分りいいわね。その方があなたのためよ」
ヒールの音が遠ざかる。
残された私は、力が抜けて壁に手をついた。
――やっぱり、私は場違いなんだ。
拓也の隣に立てるのは、最初から私じゃなかった。
視界がにじみ、涙が溢れそうになる。
必死に堪えながら、胸の奥で小さく呟いた。
「もう……期待なんてしない」
窓から射し込む光が白い床に反射し、人気のない空気がひんやりと漂っていた。
コピーを取りに行こうと歩いていた私の背後から、ヒールの音が響いてくる。
「片山さん」
呼び止められて振り返ると、そこには由梨が立っていた。
赤い唇にゆるやかな笑みを浮かべ、長い髪を肩に流している。
その視線は、どこか冷ややかだった。
「少し、お話があるの。いいかしら?」
「……はい」
促されるままに休憩スペースへと足を運ぶ。
人の気配がないことを確認すると、由梨はゆっくりと口を開いた。
「単刀直入に言うわ。拓也には近づかないで」
淡々とした声。
けれどその響きは鋭く、心を抉った。
「……どういう、意味ですか」
「そのままの意味よ。拓也は私にとって大切な人。大学の頃から、ずっとね」
大学の頃――。
その言葉に、胸の奥が痛んだ。
あの頃、彼女が拓也の隣にいた姿を何度も見た。
笑い合い、肩を並べる二人を。
だから私は、何も言えなかった。
「あなたも気づいているでしょう? 彼は私のそばにいるべき人なの。社内の誰もがそう思ってる」
由梨の瞳は揺らがない。
勝ち誇るでもなく、当たり前の事実を述べるように告げられる。
私の心は一気に沈んでいく。
「……分かりました」
絞り出した声は、震えていた。
由梨は満足げに微笑み、踵を返す。
「物分りいいわね。その方があなたのためよ」
ヒールの音が遠ざかる。
残された私は、力が抜けて壁に手をついた。
――やっぱり、私は場違いなんだ。
拓也の隣に立てるのは、最初から私じゃなかった。
視界がにじみ、涙が溢れそうになる。
必死に堪えながら、胸の奥で小さく呟いた。
「もう……期待なんてしない」