これは形だけの結婚ですので!~剛腕パイロットは初恋のカタブツ妻を容赦なく溺愛する~【愛され最強ヒロインシリーズ】
たまには姫を希望します
黒いスーツケースを引き、東京国際空港――通称羽田空港内のロビーを颯爽と歩く。

カツカツとヒールが立てる甲高い音に気が引き締まり、自然と背筋が伸びた。


「ひかりさん」


九時出発の搭乗機の準備のためにキャビンアテンダントが集まるマネージメントセンター前まで行くと、声をかけられて足を止める。

大手『FJA航空』でキャビンアテンダントをしている私、高村(たかむら)ひかりのところに駆け寄ってきたのは、泣きそうな顔をした江尻(えじり)優(ゆう)だ。


「どうしたの?」


彼女は二十六歳の私の三つ年下の後輩だ。

以前同じフライトを担当したときに先輩に叱られてしょげていた彼女を夕食に連れ出して励ましたら感謝され……それから慕ってくれるようになった。


「私……」

「はい、深呼吸して。これからフライトでしょう?お客さまをお迎えするのに、メイクが崩れるわ」


キャビンアテンダントは、メイクや髪形について厳しく指導される。

メイクは清潔感が必須で、上品かつ派手でもなく地味でもなく。
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