一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない

第1章 出会い系サイトの御曹司

居酒屋の扉が開くと、新しいお客さんが入ってきた。

「いらっしゃいませ！」

声を張り上げると、顔なじみの常連客が手を振ってくる。

「おっ、今日真帆ちゃんいる。」

「久しぶりですね。」

「ホント、真帆ちゃんがいる日に来れるなんて、ラッキーだ。」

忙しい夜の中でも、こうして名前を呼んでもらえることが嬉しい。

週二回の居酒屋バイトは、私にとって生活費を補うための手段であると同時に、心を支える居場所でもあった。

父が亡くなったあと、残されたのは家も財産もなく、ただ膨大な借金だけだった。

返済のために昼は会社員として働き、夜はこうして居酒屋でバイトをする。

休みの日はほとんどなく、趣味や遊びに時間を割く余裕もない。

けれど、常連のお客さんに「真帆ちゃん」と親しげに呼ばれると、不思議と胸が温かくなり、続けていける気がした。

カウンター越しにジョッキを渡しながら、ふと考える。

（この先、ずっとこんな暮らしが続くのかな……）

返済のゴールはまだ遠い。

将来なんて考える余裕もない。

けれど、心のどこかで、誰かに支えられる日が来ることを望んでいる自分がいる。