一夜限りの契約妻──冷徹御曹司の独占愛は甘すぎて逃げられない

第4章 契約を越えた愛

腕の中から解放されたあとも、心臓は落ち着かないままだった。

聖さんは何事もなかったように手を差し出す。

「行こう。」

その手に導かれ、私は歩き出す。

足取りは重くて、でもどこか浮ついていた。

ホテルの灯りが近づくにつれ、胸の奥の緊張がどんどん強くなる。

エントランスに入ると、制服を着たスタッフが一礼してくれる。

高級感のある空気に飲まれそうになった瞬間、聖さんが私の背に軽く手を添えた。

「大丈夫。俺がついてる。」

低い声が耳に届くだけで、鼓動が少しだけ落ち着く。

エレベーターに乗り込むと、扉が閉まり、二人きりの空間が広がった。

鏡に映る自分の頬は真っ赤で、視線を合わせるのも恥ずかしい。

そんな私を見て、聖さんは小さく笑った。

「緊張してる?」

「……はい。」

「可愛いな。」

囁かれただけで体が熱くなる。

チン、と軽い音がして扉が開いた。

「こっちだ。」

聖さんは私の手を取り、迷いなく廊下を進む。

その背中は堂々としていて、私はただエスコートされるままについていくしかなかった。

やがてカードキーが差し込まれ、静かに扉が開く。

柔らかな照明がこぼれ落ち、非日常の夜が、目の前に広がっていた。
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