Semisweet.
Episode4
「…落ち着いた?」


 あの後も瑞野のシャツを掴みながら玄関先で大号泣した。

 恥ずかしすぎて顔が上げられない。

 普段は頼りになるホテルウーマンとしての日々を過ごしているのに、瑞野の前だとどうしてこんなに弱音を吐いたり、素を見せられるのだろう。

 長い付き合いだから?いや、長くたって健斗にはこんな姿見せられなかった。


「…もう、家に居ないでよ。気が抜けて何も制御できなかった。」

「いいよ、俺はいつも俺の前だけで弱くなっちゃう菜穂を見てるのが好きだから。」

「やめてよ。好き、禁止。」

「何で?ずっと言えなかったんだから良いじゃん。婚約者と別れたって聞いた時、悪いけどすげぇ喜んだ。ようやく俺にもチャンスが巡って来たなって。」

「性格悪い、きらい。人の失恋を喜ぶな。」

「ちげぇよ。俺との新しい恋を始められることを喜んでんだよ。」

「勝手に決めつけんな、馬鹿瑞野。」


 本当にバカ。私にはその覚悟も気持ちも何も無いのに。
 何が新しい恋を始められるなの。

 突き放したいのに、もうここまでボロボロにされたら瑞野のシャツから手が離せない。

 思い切りシャツに顔を付けておまけに鼻水までつけてやった。

 これに関しては私のせいじゃなくて、抱きしめてきた瑞野の責任だけど。
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