秘密の恋/未必の故意
Prologue
 午前5時。
 コケコッコー!と、ニワトリの鬨の声で、安永玲司と嵯峨日美子は、各々の部屋で目を覚ます。
 近隣住人にとっては迷惑でしかない話だが、玲司にとって、このニワトリは大切な思い出の存在。
 もう、かなりのお爺さんニワトリなので、今でも毎朝元気に鳴いてくれることは、玲司にとってささやかな幸せで、安心でもある。
 ヒバリ型の玲司がすんなりと起き上がり、手際よく朝食の準備をするのに対して、フクロウ型の日美子は、暫くグズグズしてからキッチンへと向かう。
「おはよ⋯⋯」
 寝起きの日美子はひどく無防備で、玲司はそこがまた可愛いと思っている。
「おはよう。朝晩は大分涼しくなってきたね。そろそろ箪笥から長袖の肌着を出さなきゃダメだよ。僕が勝手に出すわけにもいかないし」
「うん」
(朝は、とても天才には見えない程ぼんやりしてるよなぁ⋯⋯)
 いつものように、向き合って二人で朝食を食べる二人。
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