秘密の婚約者は冷徹専務 ―契約から始まる社内トライアングルと、切ない溺愛―
秘密の残業
夜の執務室。
静まり返った部屋に、カタカタと紙をめくる音と、ペン先の細やかな擦れる音だけが響いていた。
蛍光灯の光は昼間よりも白々しく感じられ、広げたままの資料がやけに多く見える。
終わりはまだ遠い。
「……はぁ」
鈴子は思わずため息を落とし、手の中のシャーペンを握り直した。
「お、もうギブアップ?」
向かいから、軽やかな声。
顔を上げれば、ペンを回しながら笑っている颯真の姿がある。朗らかで、人を安心させるような笑顔だ。
「い、いえ!まだ大丈夫です。ただ、ちょっと集中が切れただけで……」
慌てて姿勢を正すと、彼は「真面目だなぁ」と肩をすくめて笑った。
「秘書課でも“がんばり屋の新人”って噂になってるぞ」
「えっ……そんな噂が……?」
頬が一気に熱くなる。思わず資料に視線を落とすが、耳の奥まで赤くなっているのが自分でもわかった。
颯真は少し表情を和らげ、くるりとペンを止める。
「でもな。俺は“がんばりすぎて倒れる秘書”より、“笑って元気に仕事を続ける秘書”の方がいいと思うんだ」
「……」
顔を上げた瞬間、真っ直ぐに向けられた眼差しとぶつかる。
その優しい声と視線に、不意に胸が詰まった。
「俺さ、仕事って“誰とやるか”が一番大事だと思ってるんだ」
「誰と……ですか?」
「そう。信頼できる人と一緒なら、大変な仕事でも前に進める。逆に、どれだけ条件がよくても、信頼できない相手とじゃ長続きしない」
彼の言葉は、どこか遠いところから胸に届くように、じんわりと沁みてきた。
(……雄大専務との“契約婚約”。そこに信頼なんて、あるのかな……)
胸の奥で迷いがざわめき、鈴子は小さく唇を噛んだ。
「……私は、まだよくわかりません。でも……」
勇気を出して、声を絞り出す。
「“信頼される人になりたい”っていう気持ちは、すごくあります」
颯真の目が、一瞬驚いたように丸くなる。
それから、ふっと柔らかく笑った。
「なるほど、やっぱり君は頼りになるな。俺の専属になってくれて、本当にありがとう」
「えっ……」
「だって、信頼って“なろう”と思わないと築けないもんだろ?君みたいな人は、きっと周りから大事にされる」
――そんなふうに言ってくれる人がいるなんて。
不意に胸が熱くなり、視界が滲む。
蛍光灯の下で、ふと気づけば二人の距離は心なしか近づいていた。
「……じゃあ、もうひと踏ん張りするか」
颯真が軽く笑い、ペンを構える。
「はい!」
鈴子も思わず笑顔を返していた。
机に向き直したとき、肩の重さが少しだけ軽くなったのは――
間違いなく、颯真の言葉のおかげだった。
静まり返った部屋に、カタカタと紙をめくる音と、ペン先の細やかな擦れる音だけが響いていた。
蛍光灯の光は昼間よりも白々しく感じられ、広げたままの資料がやけに多く見える。
終わりはまだ遠い。
「……はぁ」
鈴子は思わずため息を落とし、手の中のシャーペンを握り直した。
「お、もうギブアップ?」
向かいから、軽やかな声。
顔を上げれば、ペンを回しながら笑っている颯真の姿がある。朗らかで、人を安心させるような笑顔だ。
「い、いえ!まだ大丈夫です。ただ、ちょっと集中が切れただけで……」
慌てて姿勢を正すと、彼は「真面目だなぁ」と肩をすくめて笑った。
「秘書課でも“がんばり屋の新人”って噂になってるぞ」
「えっ……そんな噂が……?」
頬が一気に熱くなる。思わず資料に視線を落とすが、耳の奥まで赤くなっているのが自分でもわかった。
颯真は少し表情を和らげ、くるりとペンを止める。
「でもな。俺は“がんばりすぎて倒れる秘書”より、“笑って元気に仕事を続ける秘書”の方がいいと思うんだ」
「……」
顔を上げた瞬間、真っ直ぐに向けられた眼差しとぶつかる。
その優しい声と視線に、不意に胸が詰まった。
「俺さ、仕事って“誰とやるか”が一番大事だと思ってるんだ」
「誰と……ですか?」
「そう。信頼できる人と一緒なら、大変な仕事でも前に進める。逆に、どれだけ条件がよくても、信頼できない相手とじゃ長続きしない」
彼の言葉は、どこか遠いところから胸に届くように、じんわりと沁みてきた。
(……雄大専務との“契約婚約”。そこに信頼なんて、あるのかな……)
胸の奥で迷いがざわめき、鈴子は小さく唇を噛んだ。
「……私は、まだよくわかりません。でも……」
勇気を出して、声を絞り出す。
「“信頼される人になりたい”っていう気持ちは、すごくあります」
颯真の目が、一瞬驚いたように丸くなる。
それから、ふっと柔らかく笑った。
「なるほど、やっぱり君は頼りになるな。俺の専属になってくれて、本当にありがとう」
「えっ……」
「だって、信頼って“なろう”と思わないと築けないもんだろ?君みたいな人は、きっと周りから大事にされる」
――そんなふうに言ってくれる人がいるなんて。
不意に胸が熱くなり、視界が滲む。
蛍光灯の下で、ふと気づけば二人の距離は心なしか近づいていた。
「……じゃあ、もうひと踏ん張りするか」
颯真が軽く笑い、ペンを構える。
「はい!」
鈴子も思わず笑顔を返していた。
机に向き直したとき、肩の重さが少しだけ軽くなったのは――
間違いなく、颯真の言葉のおかげだった。