子供ができていました。でも、お知らせするつもりはありませんでした。
 嘘をつくつもりではなかった。
 嘘をつくつもりではなかったのだけど、結果としては嘘をついていたことになる。だって、二度と会うことのないこの人と、拓海(たくみ)の父親と再会するなんて、一体誰が予想するだろうか?


 もうすぐ三歳になる息子、拓海とともに指定されたカフェに美月(みつき)が到着すれば、手紙の差出人である(たすく)がすでに待っていた。
 美月と佑がはじめて会ったのは、今から四年前のベルギーでのビジネスショーだった。そして彼と最後に会ったのも同じ四年前。そう、ふたりの邂逅は、このときの一度きりである。

 佑が美月親子のことをを見つけると、軽く手を上げた。美月はまっすぐに彼の元へ向かう。息子を自分の隣に座らせて、美月も着席する。さっさとオーダーを決めて、改めて彼と向かい合った。
 目の前の佑は、精悍な顔立ちに意志の強い目。仕立てのいいスーツを身に纏い、ピンと背筋を伸ばした姿は、とても好感度が高い。四年前とほとんど変わりない。あのときのままといってもいい。
 こんな向かうところ敵なしといった雰囲気の佑を、美月は見つめ返す。力強く。
 そんなに睨まなくてもいいだろうというくらいに、美月は目力を込めていた。同時に、視線はピタリと佑に当て、一ミリと外さない。視線を躱したら最後、こちらの負けが確定してしまいそうで、美月はできなかった。

 こんな好戦的な視線の美月に対して、佑も負けはしない。挨拶もそこそこに、
「DNA検査から、私の子供に間違いないとのこと。こちらとしては、その子を実子として正式に受け入れたい。これが本日の用件です」
と、単刀直入に佑は本題に入った。

pagetop