隠れ溺愛婚～投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす～

プロローグ

「本当に後悔はしない？」

　耳元で響く艶のある低い声に、茉結莉(まゆり)はうつむいたまま小さく身体を揺らした。
　極度の緊張からか、冷えた指先は小刻みに震えている。
　茉結莉はそれを抑えるため、ぎゅっと両手を握り締めた。

　初めて足を踏み入れたスイートルームは、グリーンシトラスの爽やかな香りが揺れている。
　茉結莉は小さく視線を上げると、窓の奥に広がる煌びやかな都会の夜景を見つめた。

（後悔はしない。自分で決めたんだもの）

　茉結莉はキュッと唇を結ぶと、落ち着きのある香りに背中を押されるように顔を上げる。

「はい。あなただから……」

　茉結莉の凛とした声が、二人だけの室内に響く。
　その瞬間、目の前の男性は困ったように眉を下げると、優しく茉結莉の肩を抱き寄せた。

「困ったな。俺の方が、余裕がなくなりそうだ」

　茉結莉は耳元でささやくその声に、全身が熱くなるのを感じながら、そっと瞳を閉じたのだ。