隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~

ミサゴの正体

「おい、茉結莉! 聞いてんのかよ!」

 大きな声が狭い事務室内に響き渡り、茉結莉ははっと我に返ったように顔を上げる。
 パソコンのモニター越しに怖い顔を覗かせているのは、社内で唯一営業を担当している山下 大輔(やました だいすけ)だ。

「き、聞いてるわよ!」

 茉結莉は取り繕ったように返事をすると、伝票を入力するためにパソコンの画面を覗き込んだ。

 茉結莉は普段この事務室で、経理や総務、広報に至るまで事務全般の仕事を担当している。
 以前は事務社員も複数名いたが、第二工場への移転を機に皆辞めてしまった。
 今は茉結莉が母とともに事務を担当しているが、そんな中、文句も言わず営業として働いてくれているのが、茉結莉の幼馴染でもある大輔だった。

 大輔は大きくため息をつくと、自分のデスクの椅子を引っ張ってきて、茉結莉の隣にドンと怒ったように腰かける。
 背の高い大輔の圧に、茉結莉は気まずそうに横を見ると、またすぐに視線をモニターに移した。

 大輔が言いたいことはわかっている。
 つい先日、社長である父から、ミサゴファンドに会社の株を売ることが正式発表されたのだ。
 そしてそれと同時に、茉結莉の三砂慶一郎との結婚話も明らかにされた。
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