隠れ溺愛婚～投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす～

形だけの夫婦

「私との結婚も、手段の一つってことだよね……」

　小さくつぶやいた茉結莉の心を、チクリと痛みが走る。

　あれからしばらくして、茉結莉と三砂の形だけの夫婦生活が始まった。
　茉結莉は工場の隣にあった実家を出て、この都会のど真ん中にある三砂のマンションに引っ越したのだ。
　茉結莉は広すぎるリビングを進むと、窓の外に広がる都会の夜景を見下ろす。
　いつも工場の機械音を聞いて過ごしていた茉結莉からしたら、まるで音のない絵画のような光景は別世界だ。

（やっぱりすごい人なんだろうな……。でも……）

　茉結莉は深く息をつくと、L字型の大きなソファにストンと腰を下ろした。
　三砂の話を聞いた時、茉結莉が淡い期待を抱いたのは事実だ。
　三砂は決してビジネスのためでなく、祖父の大切なこの会社だからこそ、来てくれたのではないかと思ったのだ。

　でも今の三砂は、あの頃職人を目指していた森野の影は微塵もない。
　まさに噂通り心のない氷のように、社内の古い体制をバッサリと切り捨て、次々に改革を進めていた。

　ミサゴファンドからは専門的な知識のあるプロたちが派遣され、今や編成された経営再生チームが業務の主導権を握っている。
　父は名前だけの社長となり、反発した古い職人の中には、会社を去ることを選択した人もいた。
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