隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~

ミサゴの素顔

 ガタンガタンと、あちらこちらから機械音が響く通りを進む。
 茉結莉が電車を乗り継いでやって来たのは、都心の下町にある古い町工場が建ち並ぶ一角だ。
 狭い通りをいくつか通り過ぎ、茉結莉は“岩竹(いわたけ)金属製作所”という看板の前に立つと一旦息をふっと整えた。

 ここはミサゴファンドが初めて買収した町工場だ。
 元々はフォークやスプーンなどのカラトリーを中心に作っている工場だったが、買収後はスプリング製造に方針を転換した。
 そこでデザイナーとコラボした日用品が大ヒットし、一躍有名企業となったのだ。

 茉結莉は門をくぐると、すぐ近くに建っている事務所の受付で声をかけた。

「少々お待ちください」

 丁寧な事務の女性の声を聞きながら、窓から敷地内の様子を眺める。
 新築であろう綺麗な事務所の奥には、昔ながらの工場が二棟建っており、中で作業する人々の姿が見えた。

「お待たせしました」

 しばらくして社長と名乗る、父と同じくらいの年齢の、大柄な男性が現れる。
 茉結莉は丁寧に事情を話すと、工場の中を見学させてもらった。
 工場は最新の機械も導入しているが、昔ながらの職人の手作業による製法も続けているようだった。
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