隠れ溺愛婚~投資ファンドの冷徹CEOは初恋の妻を守りつくす~

不穏な知らせ

 それから数日後、三砂の退院の日がやってきた。
 茉結莉は病院の受付で退院の手続きを終えると、はやる気持ちを抑えながら三砂が待つ病室へと足を進める。

「帰ったら慶一郎さんに、何か美味しいものでも作ってあげたいな」

 茉結莉は、三砂が目を細めて食事をする姿を思い浮かべ、くすりと肩を揺らした。

 今日は退院後に二人でマンションに戻り、その後は数日休みを取ろうと話をしている。
 傷は回復し、事件の犯人も逮捕されたが、三砂はここ最近忙しすぎたのもあり、休暇を取ったらどうかと周りからも勧められていたのだ。

 病棟へと向かう静かなエレベーターに乗り込んだ茉結莉は、顔をうつ向かせると、そっと自分の唇に指先を当てる。
 ここ最近は、ふとした瞬間に三砂の吐息を思い出し、つい身体は熱を帯びたように熱くなる日々を過ごしていた。

「慶一郎さんとの暮らしが、やっと始まる気がする……」

 茉結莉は熱くなった胸の前でぎゅっと両手を握り締める。
 茉結莉と三砂が心を通わせた今、夫婦生活は大きく変わっていくだろう。

 妙にドキドキと高鳴る鼓動を感じながら、茉結莉が病室の前まで来た時、ふと中から深刻そうな声が聞こえてきた。

(誰か来てるの?)

 慌てて扉を開けた茉結莉は、目の前に立つ人物を見て思わず声を上げる。

「お父さん?」

 その声にタブレットを持つ三砂が、深刻そうな顔を上げた。

「茉結莉、すまない。すぐに会社に戻らないといけなそうだ」

 そう低い声を出す三砂の表情から、父がここに来ている理由は、何か良くない知らせだということはすぐにわかる。
 茉結莉は一気に不安が押し寄せる胸元をぐっと押さえると、静かにうなずいた。
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