明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
プロローグ
バシッ。
衝撃が走った瞬間、藤堂将吾の手からグラスが消えた。
将吾の視界に薄明の空のような藍色が飛び込んでくる。
その色をまとったドレス姿の女性に手を叩かれたからだと理解した瞬間、パリンと派手な音を立てグラスが割れた。
すると、舞踏会を盛り上げていた楽団の音楽がピッタと止まり、賑やかだった会場は水を打ったように静まり返った。
人々の視線は、音楽を止めた原因である二人に注がれた。それに気づいた彼女の黒い瞳が、突然戸惑ったように揺れる。
「君は……」
何故このような真似をしたのか、問いかけようと将吾は手を伸ばした。だが、彼女は後退り、将吾の手をすり抜ける。
「ご……ごめんなさい」
そう言って、彼女は踵を返し、早足に舞踏会の会場から立ち去ってしまった。
取り残された将吾は何が起きたのか、なぜ自分が見ず知らずの女性に手を叩かれたのか、訳が分からずに呆然と立ちつくしてしまう。
すると、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
「玲子様だわ。あの方、やっぱり狐に憑かれているのではないかしら?」
「あら、藤堂様の気を引きたくて、わざとなさったのではなくて?」
「まあ、はしたない。榊原家と言えば、ご当主は現職の議員でいらっしゃるのに……」
「お家の面汚しね」
うわさ話から推測すると、先ほどの女性は榊原玲子と言うらしい。
(彼女と会った事があるのだろうか?)
衝撃が走った瞬間、藤堂将吾の手からグラスが消えた。
将吾の視界に薄明の空のような藍色が飛び込んでくる。
その色をまとったドレス姿の女性に手を叩かれたからだと理解した瞬間、パリンと派手な音を立てグラスが割れた。
すると、舞踏会を盛り上げていた楽団の音楽がピッタと止まり、賑やかだった会場は水を打ったように静まり返った。
人々の視線は、音楽を止めた原因である二人に注がれた。それに気づいた彼女の黒い瞳が、突然戸惑ったように揺れる。
「君は……」
何故このような真似をしたのか、問いかけようと将吾は手を伸ばした。だが、彼女は後退り、将吾の手をすり抜ける。
「ご……ごめんなさい」
そう言って、彼女は踵を返し、早足に舞踏会の会場から立ち去ってしまった。
取り残された将吾は何が起きたのか、なぜ自分が見ず知らずの女性に手を叩かれたのか、訳が分からずに呆然と立ちつくしてしまう。
すると、ひそひそと話し声が聞こえてくる。
「玲子様だわ。あの方、やっぱり狐に憑かれているのではないかしら?」
「あら、藤堂様の気を引きたくて、わざとなさったのではなくて?」
「まあ、はしたない。榊原家と言えば、ご当主は現職の議員でいらっしゃるのに……」
「お家の面汚しね」
うわさ話から推測すると、先ほどの女性は榊原玲子と言うらしい。
(彼女と会った事があるのだろうか?)
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