明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

玲子様。救出されます

「将吾……様……」

 声にならないほど小さな声だったが、その響きに将吾の心が震えた。

「遅くなって、すまない。……もう大丈夫だ」

 彼は玲子をそっと引き寄せ、その背に腕を回す。

「う、うぅ……怖かった……本当に、怖かったです……」

 我慢していたものが一気に崩れるように、玲子の頬に涙が伝う。

 将吾は無言で彼女の頭を優しく撫でた。
 何も言わずとも、抱き寄せた腕に込めた想いが、玲子に伝わるよう願って。
 背後では尚文が、倒れたならず者を睨み据えていた。

「今すぐ憲兵隊を呼ぶ。こいつらにたっぷり話をしてもらうぞ……!」

 床に倒れた男たちは呻きながらも、もはや抵抗の意思は見せなかった。
 廃屋の中に、静寂が戻る。
 その中で、玲子のすすり泣きだけが微かに響いていた。
温かな日差しが、廃屋の割れた窓から差し込んでいた。
 埃っぽい空気の中、玲子は将吾の胸元に顔を伏せたまま、微かに肩を震わせている。

「ありがとうございます……わたくし……本当に……怖かったです……」
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