明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~

藤堂様、罪は白日のもとに……

榊原家──。
 午後の陽が、廊下に長く影を落としていた。
 将吾が憲兵を伴って邸内に足を踏み入れたとき、女中たちは緊張した面持ちで道を開けた。
 応接間に通された一行の前に、いつもと変わらぬ派手な大柄の着物をまとった百合絵が現れる。
 白粉をのせた頬、真紅の口紅。けれど、その華やかさの裏に、どこか不自然な硬さがあった。

「まぁ、藤堂様……今日はどういったご用件で?」

 作り笑いを浮かべ、まるで茶会にでも呼んだかのように振る舞う。
 その横には、舞香と榊原隆之の姿もある。
 舞香は不安げに母を見つめ、隆之は気だるげに煙管をくゆらせていた。
 将吾の声が、冷たい鋼のように部屋を斬り裂く。

「玲子殿の誘拐と千賀子さん殺害の件だ。証人も証言も揃っている。あとは、貴女の口から聞くだけだ」

 瞬間、舞香と隆之の視線が百合絵に注がれる。
 当事者の百合絵はピクリと眉毛を動かしたが、すぐに笑みを崩さぬまま、しれっと返す。

「……何のことでしょう。殺人など、(わたくし)が? まさか、そんな……」

「ごまかすな」

 
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