明治恋奇譚　〜藤堂様、ミエテマスヨ！～

歪んだ愛の行方

　憲兵に両腕を取られ、百合絵が引き立てられようとしたそのときだった。

「待てッ！」

　隆之の怒声が、重く響いた。
　年老いたその声は、かつての威厳を取り戻したような響きを持っていた。

「……お前が……千賀子を殺したというのは、本当なのか……？」

　百合絵が振り返る。けれど、さっきまでのヒステリックな激情は影を潜め、虚ろな目をしていた。
　口元だけがわずかに動き、唇から細い声がこぼれた。

「わたくしは……ただ、あなたの一番で居たかった……」

「黙れ！」

　隆之の顔が、怒りに紅潮していた。手にしていた煙管を握り潰すほどの力だった。

「……あの時……“千賀子は男と駆け落ちした”と、お前は言ったな」

　その声は、もう震えていた。

「わしは信じてしまったんだ……千賀子が、わしと玲子を捨てて行ったのだと。だから、玲子を見るたびに……憎しみを抑えきれなかった」

　隆之の目が潤む。

「だが……全部、お前の嘘だったのか……。わしが……あの子を、どれだけ……どれだけ傷つけてきたと思っている……！」

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