明治恋奇譚 〜藤堂様、ミエテマスヨ!~
玲子様、和解をします
藤堂家の庭先に、ひときわ深い秋の風が吹いていた。
あれから数日経ったある日の午後、応接間の一角。
玲子は一将にすすめられ、ゆるやかな茶の時間を過ごしていた。ふと玄関先から女中の呼び声が届く。
「榊原隆之様が、お見えになっております」
玲子の手がわずかに震えた。
茶碗を置くと、ゆっくりと立ち上がり、応接室の戸口に向かう。
やがて、廊下の向こうから姿を現した男爵・榊原隆之は、どこか憔悴した面持ちをしていた。
以前のような威圧感はなかった。むしろ、背を丸め、胸元で手をきちんと重ねる姿は、どこか申し訳なさそうで、別人のように見えた。
玲子は思わず足を止める。
「……お父様」
その声に、隆之がはっと顔を上げる。
「玲子……」
ほんの少し口元が動いたが、すぐに言葉を詰まらせ、代わりに一礼をする。
「少し……話がしたい。迷惑かもしれんが……時間をくれるか」
玲子はゆっくりと頷いた。
藤堂家の応接間にて、向かい合って座る父と娘。
だが、玲子はまだ、心をほぐし切れてはいなかった。
かつて、榊原の離れにいた頃。
父は母屋にいても、玲子に直接言葉をかけることはほとんどなかった。
その代わりに届くのは、継母・百合絵からの冷たい命令と、使用人を通じた「お叱り」ばかり。
(それでも……わたくしは、父様の背中をずっと目で追っていました)
あれから数日経ったある日の午後、応接間の一角。
玲子は一将にすすめられ、ゆるやかな茶の時間を過ごしていた。ふと玄関先から女中の呼び声が届く。
「榊原隆之様が、お見えになっております」
玲子の手がわずかに震えた。
茶碗を置くと、ゆっくりと立ち上がり、応接室の戸口に向かう。
やがて、廊下の向こうから姿を現した男爵・榊原隆之は、どこか憔悴した面持ちをしていた。
以前のような威圧感はなかった。むしろ、背を丸め、胸元で手をきちんと重ねる姿は、どこか申し訳なさそうで、別人のように見えた。
玲子は思わず足を止める。
「……お父様」
その声に、隆之がはっと顔を上げる。
「玲子……」
ほんの少し口元が動いたが、すぐに言葉を詰まらせ、代わりに一礼をする。
「少し……話がしたい。迷惑かもしれんが……時間をくれるか」
玲子はゆっくりと頷いた。
藤堂家の応接間にて、向かい合って座る父と娘。
だが、玲子はまだ、心をほぐし切れてはいなかった。
かつて、榊原の離れにいた頃。
父は母屋にいても、玲子に直接言葉をかけることはほとんどなかった。
その代わりに届くのは、継母・百合絵からの冷たい命令と、使用人を通じた「お叱り」ばかり。
(それでも……わたくしは、父様の背中をずっと目で追っていました)